科学的介護データベース「CHASE」とは?

厚生労働省は現在、科学的介護データベース「CHASE」の2020年度中の運用を目指し調整しています。この「CHASE」とはどのような意味でしょうか。そして「科学的介護」とは一体どのようなもので「CHASE」がなぜ必要なのでしょうか?今回は「CHASE」の意味や必要とされる理由と、それによって介護がどのように変わることを期待されているのかについて解説します。

「科学的介護」とはそもそも何?

2000年4月に介護保険法が施行され、介護サービスは従来の措置制度から契約制度へと舵を切りました。特別養護老人ホームなどの施設系サービスや、通所介護、訪問介護、短期入所生活介護などの在宅サービスといった生活ニーズに合わせた介護サービスが多数用意され、それにより高齢者は自らの望む介護サービスを自らが選択し、その有する能力に応じた最大限自立した生活を送ることができると期待されました。

しかしどのような介護サービスを提供しているのかは各事業者によって分かれており事業所独自に工夫したサービスを行っていましたが、選択する利用者にとってはそのサービス内容がどれほどの効果があるのか、どれほどのリスクがあるのかといった根拠や客観的な情報がなく分かりづらいものとなりました。

介護業界にはこの「根拠」や「客観的な情報」が不足していたともいえます。医療業界は「EBM」(エビデンス・ベースド・メディシン)「EBN」(エビデンス・ベースド・ナーシング)という「エビデンス(客観的事実に基づいた根拠、理由)に沿って提供される医療、看護」の考えが広く定着しています。この医療業界の「エビデンス」は多数の症例や臨床結果を記録し分析結果を論文に残し、業界全体で共有することによって積み上げてきたものです。その結果「今までの同じ症例ではこの治療方法が最も効果が高い」というエビデンスを患者に示すことができるのです。このエビデンスに沿った客観的な情報を「科学的根拠」などと呼びます。

利用者が使いたいサービスを比較し自らが選択するためには医療業界と同様に、介護業界においても介護サービスについてのエビデンスを集め、サービスの内容、ケアの内容を、客観的根拠をもって利用者に提示できることが必要です。これを「科学的介護」といいます。

「CHASE」とは?

厚生労働省は「科学的介護」の実践のためには介護サービスにおいてもエビデンスを集めて情報を蓄積し、それを分析することによって利用者に提供される介護サービスの根拠を提示できる必要があるとし、介護分野のエビデンスを集めるデータベースの作成を進めています。このデータベースが「CHASE」です。「CHASE」という名称は、介護サービスの介入を示す「Care&HeAlth」利用者の状態を示す「Status」利用者の情報を示す「Events」を組み合わせた造語です。この「CHASE」のデータベースは電子情報として蓄積していくとしています。

なぜ電子化する必要があるの?

今現在、介護に関係する分野においても稼働している電子化されたデータベースは存在します。
ひとつが「介護保険総合データベース」というものです。介護保険総合データベースとは、介護保険サービスの利用者の市町村や年齢、要介護度などの基本情報に加え介護保険サービスを月にどのくらい使ったか、どのようなサービスを使ったかというサービスの種類と頻度、そして介護保険サービスにどれくらいの費用がかかっているかといった保険給付についての情報が蓄積されています。これらの情報は、介護保険事業者が毎月国保連に対して行っている保険請求である「レセプト業務」の内容と同じです。この介護保険のレセプトのデータを蓄積したものが「介護保険総合データベース」です。現在まで行政のみが利用できるものとし、第三者に介護保険総合データベースから情報提供を行ったという実績はありません。

もうひとつが「VISIT」というものです。VISITはリハビリ分野に関するデータベースとなっています。通所リハビリテーション、訪問リハビリテーションの事業所から任意に情報の提供を求めるもので、その内容はリハビリテーションのサービスを利用する方の疾病や障害、ADLなどの「健康状態」と「心身機能」日常生活の現状や希望をまとめた「活動」社会との関わりの現状や希望をまとめた「参加」住宅環境や支援環境、収入など身の回りのケアの環境に係る関係性をまとめた「環境因子」個人の生い立ちや価値観などに基づくニーズの関係性をまとめた「個人因子」からなるICFに沿った利用者のアセスメント表と、リハビリテーションの計画書や評価表などのケア記録を収集しています。リハビリサービスを使う利用者に対してどのように課題を分析しどのようなケアでアプローチし、どのような成果が出ているかが分かるも担っています。

介護保険総合データベースは、要介護度別や地域別に利用者がどのようなサービスをどれくらい使っているのかが分かりますが、どのようなケアを受けているかを分析するには内容が不十分です。また、VISITはリハビリテーションのサービスの利用者については分かりますが、その他の介護保険サービスを使っている利用者に対してのエビデンスとして活用するには不十分です。
そこで介護保険サービスを使う利用者のADLや認知症に関する情報、食事摂取量や口腔の情報など、介護保険総合データベースとVISITでは足りない情報を「CHASE」で介護サービス事業所から収集し、介護保険総合データベース、VISITそしてCHASEのデータベースを統合しひとつの大きなビッグデータとして分析することで根拠に沿った介護方法を導こうという狙いがあります。既存のデータベースと連結して稼働させるために、CHASEは電子化、データベース化する必要があるのです。

「CHASE」によって介護の未来はどうなる?

では、「CHASE」が本格的に稼働し、介護保険総合データベース、VISITと連結されることによって科学的な介護がなされるようになれば、介護業界はどのように変化すると期待されているのでしょうか。それには以下の効果があります。

 利用者が適切な介護方法を選択できる

「CHASE」が本格稼働し科学的な介護が提示されるようになると、利用者は自分自身がどのようなケアを受けることが望ましいのかを根拠を持って知ることができます。そのケアを実践できる介護サービスを利用者自身が選択し、自らが望む能力の獲得や望む生き方ができるようになると期待されています。

 自立支援、重度化防止に役立つ

「CHASE」によって提示される日本全国から集めた情報を基に分析された、根拠に沿ったケアを受けることにより、ADLやQOLの維持、向上への効果がより一層高まると期待されます。介護サービスの目的でもある「有する能力に応じた自立した生活」を目指す自立支援や「能力の維持向上に励む」という重度化の防止という目標に対して効果的なアプローチが図れるようになります。

 介護職や事業所の質が向上する

「CHASE」の稼働により科学的な介護が提供できるようになると、介護職は「どのようなケアが望ましいのか」や「正しい介護方法はどうすればよいのか」を、根拠を持って知ることができます。しっかりと根拠、理由を明確にできる介護を提供することにより介護職の質の向上が期待できます。事業所においても「CHASE」が提示するエビデンスに基づいた介護サービスを提供できなければ利用者に選択してもらえなくなりますし、介護職の離職にも繋がることでしょう。エビデンスに基づいた介護サービスを提供できる体制を整えることで介護職の質が底上げされることにより事業所自体の質が向上する効果が期待されます。
また、「CHASE」に情報を提供した事業所や利用者に対してフィードバックを行っていくことも予定されており、それが介護職員や事業所の質の向上だけでなく利用者の能力向上にも役立つと思われます。事業所が「CHASE」を有効活用していくには記録の電子化が必要となり、さらに「CHASE」に対応したシステムの導入が今後求められることになるでしょう。

まとめ

・従来の介護サービスは「なぜその方法なのか」「そのケアにどのような効果があるのか」を明確にできる根拠が不十分だったため、利用者が適切なサービスを選択しにくかった

・利用者の自立支援、重度化の防止、介護職や介護事業所の質の向上のために根拠に基づいたケアを示す「科学的介護」へのニーズが高まっていた

・介護保険総合データベース、VISITという既存のデータベースでは介護サービスのエビデンス構築には不十分だった

・不足している情報を補うために新しいデータベース「CHASE」で情報を補完、既存のデータベースと連結、分析することで科学的介護の実現を図っている

・科学的介護を実践するためには、今後「CHASE」へ情報提供を行えるシステム(CHASEに対応したシステム)が求められている

参考URL:
NDソフトウェアのホームページからでも読むことが出来ます。

NDソフトウェア提供の動画コンテンツ「NDS TV」で「CHASE」の概要を紹介します!